「グリオキシル酸」という成分名を美容院で耳にする機会が増えてきました。ただ、実際に髪の中で何をしている成分なのか、縮毛矯正とどう違うのか、正確に説明できる美容師はまだ多くありません。
この記事では、成分の仕組みから縮毛矯正との違い、注意すべき点まで根拠をもとに解説します。
グリオキシル酸とは
グリオキシル酸(Glyoxylic acid)は、ブドウや砂糖から抽出されるアルファ-ケトカルボン酸の一種です。毛髪ケアの分野では「酸熱トリートメント」の主成分として使われ、近年の髪質改善メニューの中核を担う成分です。
分子量が小さく、毛髪の内部(コルテックス)まで浸透できるのが特徴です。
髪の中で何をしているのか
グリオキシル酸の主な作用は、ケラチンタンパク質との架橋結合の形成です。
毛髪の主成分であるケラチンにはリジン(Lysine)やセリン(Serine)などのアミノ酸が含まれています。グリオキシル酸はこれらのアミノ基と反応し、イミン結合(シッフ塩基)を形成します。この新しい結合が突っ張り棒のように髪の内部を補強し、歪んだ形状を整えます。
縮毛矯正との違い
| 縮毛矯正 | グリオキシル酸(酸熱) | |
|---|---|---|
| 薬剤の種類 | 還元剤(チオグリコール酸等) | 酸性成分(グリオキシル酸) |
| 作用の仕組み | SS結合を切断→再結合 | ケラチンに架橋を追加 |
| 仕上がり | 直毛に固定 | ツヤ・まとまり・うねり緩和 |
| 持続期間 | 半永久(新生部を除く) | 約3〜4ヶ月 |
| ダメージへの影響 | ハイダメージ毛は要注意 | 還元剤不使用のためダメージが少ない |
| カラーとの相性 | 基本的に問題なし | アッシュ系は色落ちしやすい |
クセを「固定」するか、「整える」かの違い
縮毛矯正は化学的にクセを直毛の状態で固定します。矯正した部分は半永久的にストレートを維持できますが、一度施術するとその部分の構造は変化しています。
グリオキシル酸は直毛に「固定」するものではなく、髪の形状を整えてツヤ・まとまりを出すものです。「縮毛矯正ほどのクセを伸ばす力はないが、ダメージが少なく自然な仕上がりになる」と理解するのが正確です。
グリオキシル酸が向いている髪質
- 軽いうねりや広がりが気になる
- ツヤ・まとまりを出したい
- カラーを繰り返してダメージが蓄積している
- 縮毛矯正のような直毛ではなく、自然な仕上がりを好む
逆に、強いクセや縮れを根本から伸ばしたい場合は縮毛矯正の方が適しています。
注意点
① アッシュ系カラーとの相性
グリオキシル酸はpHが1〜3の強酸性です。この酸性環境がヘアカラーのジアミン成分に作用し、色素を分解してしまう場合があります。特に影響を受けやすいのがアッシュ・グレー系の色味です。
アッシュ系カラーは青・紫系の染料を使っており、この色素は酸に対して不安定です。グリオキシル酸を施術すると、アッシュの青みが壊れて赤みや黄みが浮き出し、「なんとなく茶色っぽく色落ちした」という状態になります。カラーを行う場合は、グリオキシル酸の施術をヘアカラーより先に行うことが基本です。
② アルカリ性縮毛矯正との順番に注意
酸熱トリートメントを施術した後、約半年はアルカリ性の還元剤を使った縮毛矯正をすることができません。
グリオキシル酸が形成したイミン架橋は、酸性環境では安定していますが、チオグリコール酸などを使う一般的な縮毛矯正の還元剤(強アルカリ性・pH9〜10)と接触すると加水分解が起き、制御できない形で髪の内部構造が変性します。その結果、「ビビり毛」(チリチリ・極端なパサつき)になるリスクが非常に高まります。イミン架橋が自然に緩和されるまでに約半年を要するため、それ以降でなければアルカリ性縮毛矯正の薬剤を安全に使用できません。
なお、システアミン系など酸性域で作用する縮毛矯正剤は化学的な干渉が起きにくいとされていますが、実際の施術では毛髪の状態と施術歴を慎重に確認した上で判断する必要があります。
③ 強酸性ゆえの技術依存性
グリオキシル酸はpHが非常に低い強酸性です。使い方を誤ると架橋がキューティクル表面だけで起きてしまい、繰り返すことで髪が過度に収斂する「過収斂」が起こるリスクがあります。知識と技術を持つ美容師が行う施術です。
グリオキシル酸を選ぶ際に確認したいこと
グリオキシル酸を使った酸熱トリートメントはサロンによって処方が異なります。単体で使うか、グルコン酸亜鉛などと組み合わせるかでも挙動が変わります。
グルコン酸亜鉛との複合処方では、亜鉛イオンがシステインの硫黄基に配位結合を追加するため、アミノ基への架橋と合わせてより多角的な補強が可能です。また、グリオキシル酸単体では架橋固定に180℃以上のアイロンが必要ですが、グルコン酸亜鉛との複合処方では140℃の低温アイロンでも十分な定着が得られるとされています。
施術を検討する際は、使用する処方・アイロン温度・施術者の技術力を事前に確認することをお勧めします。
まとめ
- グリオキシル酸はケラチンのアミノ基と反応し、架橋を形成する成分
- 縮毛矯正と異なり、SS結合を切断しないためダメージが少ない
- 直毛への「固定」ではなく、ツヤ・まとまりを出す「整え」の施術
- アッシュ系カラーを行う場合は施術の順番に注意が必要
- 酸熱施術後は約半年、アルカリ性縮毛矯正に戻せない(酸性縮毛矯正は別途判断)
- 強酸性のため、正しい技術と知識が必要
CLASSE(クラス)について
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髪質改善に特化した完全マンツーマンの美容室です。使用する薬剤の成分・作用機序にこだわり、根拠のある施術をご提供しています。
- 髪質改善・縮毛矯正:ダメージ毛・うねり・広がりへのアプローチ
- エイジングケア:加齢による髪のハリ・コシ・ツヤの変化に対応
- 頭皮・健康:幹細胞培養上清液によるスカルプケアも対応
参考文献
Robbins CR. “Chemical and Physical Behavior of Human Hair.” 5th ed. Springer, 2012.
Cruz CF, et al. “Keratins and hair straightening.” Journal of Cosmetic Science, 2013.
Gavazzoni Dias MF. “Hair cosmetics: an overview.” International Journal of Trichology, 2015.

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